耳科
犬や猫の耳は、人と比べて外耳道(入り口から鼓膜まで)が長くL 字型に折れ曲がった複雑な構造になっています。そのため、水が入ったり、虫などの異物が入るとなかなか取れづらく、また深部の密生した毛にれが絡まって溜まり、炎症を引き起こしたりするケースもよく見られます。
耳科の病気で日常的に最も多く見られる疾患はこの外耳炎であり、耳をかく、頭をよく振るなどの行動がサインになります。外耳炎は耳道内の洗浄と点耳薬による治療で改善しますが、一部の犬や猫では慢性化し、難治性外耳炎へと進行してしまうこともあります。
症状
外耳炎は犬猫問わず多く見られる病気ですが、犬の場合は垂れ耳の犬種や耳毛の多い犬種が構造的な要因から罹りやすいとされています。
下記のサインが見られたら早めに受診してください。
- 耳をかく、引っ掻き続ける
- 頭を何度も振る、頭を傾ける
- 耳を床や壁にこすりつける
- 耳の中が赤くなって腫れている
- 耳垢の色が濃くなってきた
- たまっている耳垢から臭いがする
診察の流れ
問診・身体検査
耳道内の被毛や垂れた耳や狭い耳道、耳道内での分泌過多などといった先天的な要因の他、水分が耳道内に入りやすいような生活環境や気候(高温多湿)といった環境要因が耳の疾患の原因となります。これに対して疾患の直接的な要因として、寄生虫、異物、腫瘍の他、アレルギー皮膚炎、免疫性疾患などの基礎疾患が挙げられます。このように耳の疾患の発生には複数の要因が関連しており、診断を正確にするためには問診や身体検査が重要となってきます。
検査・観察・診断
耳鏡検査
耳鏡による観察の目的は(1)耳道内の上皮の状態、(2)異物や腫瘍の存在の有無、(3)鼓膜の損傷の有無を確認することです。肉眼で観察される部位に異常がなくても、次のステップとして必ず耳鏡検査を実施し、異物や腫瘍の存在を確認する必要があります。
ビデオオトスコープ
ビデオオトスコープ検査では、従来の耳鏡では評価が困難だった耳の奥の耳道や鼓膜まで見ることができ、検査やさまざまな治療も行うことができます。ビデオオトスコープによる観察は、耳道内腔が拡大されてモニターに描出されるため、より細かい観察が可能となります。またモニター画面を見ながら、より効果的な耳道洗浄や、異物の除去、レーザーによる腫瘍の焼烙など、治療を同時に行うことができるといった利点もあります。
オトスコープ使用風景
ビデオオトスコープの適用
外耳炎の治療として、耳道環境を最適な状態、清潔に保つためには耳道洗浄が必要になります。自宅での綿棒による耳道掃除ではきれいにしているつもりが、耳道を傷つけてしまい、結果として耳道環境を悪い状態にしてしまっていることが多くあります。自宅での耳掃除がちゃんとできているかを確認してみましょう。
綿棒により傷ついた耳道
外耳炎では見える範囲の垂直耳道だけでなく、深部の水平耳道や鼓膜の状態を確認する必要があります。綿棒をつかわないマッサージによる耳道洗浄でも、耳道深部の毛が密生していると毛に耳垢が絡まってしまい、耳垢の塊が形成されてしまうことがあります。また鼓膜が損傷していると使用できない洗浄液があるため、外耳炎の治療前には耳道深部や鼓膜の評価をしてみましょう。
水平耳道の炎症や耳垢、鼓膜の評価
耳道内や鼓室胞内には腫瘍が形成されることがあります。腫瘍により耳道の物理的な圧迫による狭窄や二次的な感染がおき、耳の中が化膿しているような状態、耳だれ(耳漏)になってしまうことがあります。良性のポリープや耳垢腺腫であればビデオオトスコープでは生検鉗子を用いて、非侵襲的な切除生検を行うことができます。
耳道内腫瘤
異物の除去
耳道内に異物が混入して急性の外耳炎症状を示すことがあります。ビデオオトスコープでは鉗子を用いて容易に異物を摘出することができます。
慢性外耳炎からの中耳炎の評価
慢性外耳炎の約50~80%に二次的な中耳炎が併発すると報告されています。慢性化した症例では頭部のレントゲン検査と合わせて、ビデオオトスコープにより中耳炎の評価を行います。MRI やCTの評価も必要になることがあります。
耳垢検査
耳道内からの分泌物が認められた場合、塗抹標本を作製し顕微鏡による検査を行います。 (1)炎症の程度、(2)角化亢進の有無、(3)細菌や真菌の増殖の有無、(4)寄生虫の有無について評価することができます。
細菌培養・薬剤感受性試験
すでに長期間にわたり抗菌薬が投与されている場合などでは、疾患の原因菌が薬剤に対して耐性を示すことが多く、経験的な薬剤の投与による治療がうまくいかない可能性が高くなります。このため、原因菌の培養と薬剤感受性試験を実施することが重要となります。
画像診断
耳の疾患のすべての動物で画像診断が必要になるわけではありませんが、慢性化し難治性となった外耳炎の場合や腫瘍性疾患が疑われる場合には、腫瘍などの存在の有無や中耳への波及(中耳炎)の確認を目的として頭部のX線検査やCT検査といった画像診断を行うことがあります。
代表的な耳の疾患
マラセチアによる外耳炎
マラセチアは犬や猫の表皮角質層に常在する酵母様真菌であり、皮膚や耳道内などから検出されます。湿潤や皮脂の多い環境で増殖しやすく、皮膚環境の変化や宿主の免疫機能の変化により病原性を発揮すると考えられており、独特の臭気や強いかゆみを生じます。治療は、耳道を洗浄したのち抗真菌薬を点耳します。
ミミヒゼンダニによる外耳炎
ミミヒゼンダニは犬や猫の主に外耳道に寄生する比較的大型のダニです。ダニの移動による物理的刺激かあるいはダニのもつ成分に対する過敏症によるものと考えられる強いかゆみと炎症を伴い、罹患動物の外耳道はもろい黒褐色の耳垢により満たされます。まれにミミヒゼンダニが外耳道以外の腰背部などに症状を起こすこともあります。治療は、耳道を洗浄したのち駆虫薬を塗布します。