しっぽのある家族の健康管理をしていく上で欠かせないフィラリア予防。
蚊が飛び始める4月から、姿が見えなくなる12月まで、
毎月のお薬でしっかり予防していくことの大切さはよくご理解いただけていることと思います。
ただ、あまりに身近な予防であるため、
あらためて考えたり、知識をアップデートしたりする機会もなく、
知っているつもりで実は知らないことがあったり、誤解が混じっていたり…
という面もあるのではないでしょうか。
このコンテンツでは、フィラリア予防についてさまざまな角度から、より深く解説してまいります。
フィラリアとは?
糸状虫(しじょうちゅう、学名: filarial worm)と総称される寄生虫の一種です。その名のとおり、糸のように細長い形状をしています。
フィラリアは蚊によって運ばれ、ヒトや動物に寄生し、宿主の体内で成長・繁殖、メスが産出する仔虫が蚊によってまた別の宿主に運ばれていくというサイクルを繰り返しながら感染を広げます。ヒトに寄生するフィラリア(バンクロフト糸状虫、マレー糸状虫、チモール糸状虫)は熱帯・亜熱帯では今なお蔓延していますが国内では根絶しており、現在の日本でフィラリアというと動物~特に犬、そして猫~に寄生するイヌ糸状虫(いぬしじょうちゅう、学名 : Dirofilaria immitis)を意味します。
フィラリアは5段階の成長ステージ(L1~L5※)を
経て成虫になります。
感染して成虫になるまでの期間は6~7カ月、
成虫になってからの寿命は5~6年です。
※Lは幼虫を意味するLarvaの略
蚊に育ててもらい、
犬の中で一生暮らす、
フィラリアの戦略。
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L1(第1期幼虫)
- 形態:ミクロフィラリアと呼ばれる体長約0.3mmの仔虫。フィラリアはメスの体内で卵が孵化する卵胎生のため、幼虫の姿で産まれます。
- 成長・寿命:血管内を循環漂流して蚊に吸われるのを待っています。吸われなかった場合は約2年で死滅します。血管内にいる限りミクロフィラリアのままで、成長することはありません。
- 寄生場所:感染犬(猫)の血管内
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L2(第2期幼虫)
- 成長:蚊に吸われて蚊の体内に侵入できたミクロフィラリアは、中腸(胃)で1日過ごした後、腎細管であるマルピーギ管に移動して脱皮し、10日前後でL2になります。
- 寄生場所:蚊の体内
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L3(感染幼虫)
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成長:気温条件が良ければその後3日程度でまた脱皮してL3となり、犬(猫)への感染能力を獲得します。
蚊の口吻の吻鞘(ふんしょう)~さやのような形をした下唇に相当する口器の一部~へ移動し、蚊が吸血するタイミングを待ちます。この時点で体長は1mm強にまで成長しています。 感染機会に恵まれなかった場合は蚊の寿命(約一カ月)とともに死滅します。
- 寄生場所:蚊の口吻
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L4(体内移行幼虫)
- 成長:蚊が吸血する際、L3は分泌液に乗って蚊の体外に押し出され、吻鞘を伝って犬(猫)の皮膚に降下、針の傷穴から体内(皮下)へと侵入します【感染】。皮下組織に潜伏し、3~10日で脱皮してL4となり、筋肉へと移動します。
- 寄生場所:犬(猫)の皮下、筋肉内 ※犬(猫)=終宿主
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L5(未成熟虫)
- 成熟:感染から2カ月程度で脱皮してL5となり、血管へ侵入し、動脈流に乗って数日かけて体内を循環しながら肺動脈に辿り着きます。L5はオスもメスもすべて最終的に心臓部に寄生します。この時点で体長は2~3cmになっています。
- 寄生場所:動脈~肺動脈~右心室
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成虫(成熟虫)
- 寿命・生殖:肺動脈にたどり着いたL5は、血液から栄養分をどんどん取り込み、4~5カ月かけて成長し、やがて生殖能力を備えた成虫となります。成虫の寿命は5~6年です。オスと交尾したメスは毎日2,000~3,000匹のミクロフィラリアを産み続けます。血中に放出されたミクロフィラリア(L1)は血管内を漂い、蚊が吸血してくれるのを待ち続けます。
- 寄生場所:肺動脈~右心室、L1は血管内を循環
フィラリア症とは?
フィラリアの成虫が心臓に寄生することで様々な深刻な症状を引き起こす感染症です(イヌ糸状虫症、dirofilariasis)。フィラリアは、感染してもL4までは特に症状に現れません。しかし、駆虫せずにいると、幼虫は筋肉から血管へと侵入し、やがて成虫となって肺動脈に寄生します。寄生数が多くなると、肺動脈では収まらず、心臓(右心室、右心房)へと溢れていきます。結果、全身の血液循環が阻害され、心臓、肺、肝臓、腎臓などに様々な異常をきたすようになります。また、血中に放出されたミクロフィラリアの大量の死骸が血管に詰まることで死につながる危険もあります。
症 状
一般的には感染から2~3年かけて進行し(慢性)、下記のような症状が見られるようになります。
軽度
- 元気がない、毛艶が悪くなる
- ごはんを喜ばない、痩せてきた
- 運動をいやがる
- 咳をする
重度
- お腹まわりが張ってきた
- 呼吸が苦しそう
- 目や口の粘膜が白っぽい
- 尿の色が赤っぽい
お腹が膨らんできた
呼吸が苦しそう
尿の色が赤くなる
急性フィラリア症
多数のフィラリア成虫が一気に肺動脈や右心室に詰まることで、激しい呼吸困難や血色素尿、貧血等を引き起こす場合があります。この症状が現れたら、手術で虫体を摘出する以外に治療方法はありません。
手術をしても死亡する可能性がありますが、手術をしないと数日以内に100%死に至ります。
フィラリア症は、たとえ重篤な症状ではなく(慢性)、治療ができたとしても、いったん傷ついてしまった心臓や血管が元通りに回復することはありません。心臓や肺の治療を生涯にわたって続けていかなければならず、寿命はかなり短くなってしまいます。
フィラリアの感染を広げるのは、私たちもよく刺される、ごく一般的な種類の蚊です。
ヒトスジシマカ、アカイエカ、チカイエカなどが運び屋になり、感染症を拡散させます。
ヒトスジシマカ(ヤブカ属)
- 特徴
- 黒っぽい体に白いしま模様、屋外で見かけることが多い
- 体長
- 4〜5mm程度
- 活動時間帯
- 日中
- 活動範囲
- 狭い(半径100〜150m)
- 活動サイクル
- 5〜10月が活動時期、11月頃に産卵された卵は越冬して春に羽化
アカイエカ(イエカ属)
- 特徴
- 赤みがかった茶色の体、湿った場所や屋内に生息、「ぷ〜ん」と音を発して飛ぶ
- 体長
- 5〜6mm程度
- 活動時間帯
- 夜間
- 活動範囲
- 広い(半径100m〜数km)
- 活動サイクル
- 4〜10月が活動時期、晩秋に羽化した蚊(メス)は休眠状態で越冬
※同じイエカ族であるチカイエカもアカイエカと似た生態になりますが、その名の通りビルの地下など暖かな場所に生息しているため、冬眠せず一年中活動しています。
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蚊はなぜ血を吸う?
それは、産卵に必要な栄養(タンパク質)を補給するため。つまり、吸血するのは交尾を終えた産卵期のメスだけです。
さなぎから羽化して成虫になった蚊の寿命は約1カ月。メスはオスと交尾して一生分の精子を蓄え、死ぬまでに産卵を3回程くり返します。1回に産みつける卵の数は100〜200個(ヒトスジシマカの場合)。卵塊で数多く産むためタンパク質等の栄養補給が必須となり、人や動物を刺して吸血します。1回の吸血量は蚊自身の体重の2〜3倍量におよぶといわれています。
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蚊はどこからやってくる?
川や森林などの野外に限らず、道路であれば雨水のたまった空き缶や植え込み、住宅周りであれば軒下のちょっとした日陰や植木鉢、散水栓まわりなど、水や湿り気のある場所ならどこでも繁殖し、血を求めて人や動物に近づきます(♀)。
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蚊はどうやって獲物を探す?
蚊は二酸化炭素、温度、水分を手がかりにして吸血ターゲットを探します。呼気や体臭、体温、汗などに敏感に反応し、すばやく接近してとまります。
犬は地面に近い位置にいて、体温が高く、体臭も強いため、ヒトよりも狙われやすいといわれています。刺されても痒みを感じづらく、追い払うこともあまりしないので、飼い主さんも気がつかないうちに実は刺されているということがあります。
春夏秋は蚊の繁殖シーズン!!
1匹のメスの蚊が約1カ月の寿命の間に生む卵の数は300〜600個。
それらはわずか2週間程で成虫になり、交尾・吸血・産卵で増え続けます。
吸血とフィラリア感染のしくみ
蚊が吸血に用いる針は、単独構造ではなく、システム機器のように複雑かつ精密な構造になっています。6本のパーツをケースに収めたようなその構造は口吻(こうふん)と呼ばれ、パーツにはそれぞれ明確な役割があります。
- 上唇
- 血を吸い上げる器官です。スリットの入ったストローのような形状をしています。
- 大顎(1対)
- 血を吸う際、ストローを被い、安定させる役目をする針です。
- 下咽頭
- 麻酔効果と血液凝固防止効果のある物質を含む唾液を注入する管です。
- 小顎(1対)
- 上唇を刺し込みやすいようノコギリ状の突起で皮膚を切り開きます。
- 下唇
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吻鞘とも呼ばれる、全パーツを包含する大きな鞘(さや)です。上唇同様、スリットの入ったストローのような形状をしています。吸血の際はパーツより先に皮膚に接触しますが、先端に丸みがあり、毛に覆われているので、刺激を感じさせないまま、効率よく吸血を進めることができます。